次の各事例における甲の罪責に関し,下記結論とその根拠の組合せとして矛盾しているものは, 〔No.54〕
後記1から5までのうちどれか。
【事例】
Ⅰ 甲は,Aと婚約中であったが,別の人との結婚を望むようになり,Aと別れようとして,Aに対
し,「事業が失敗したので死ぬしかない。一緒に死んでくれ。すぐに自分も自殺するから。」と嘘
を言って致死量の毒薬を手渡したところ,Aは,その言葉を信じ,それを服用して死亡したが,甲
は自殺しなかった。
Ⅱ 甲は,かねてAに死んでほしいと思っていたが,不治の病にかかっているのではないかと心配し
ているAに対し,「余命はあと数週間だ。最期は痛みに耐えられなくなるそうだ。今のうちに自ら
命を絶った方が良い。」と嘘を言い,致死量の毒薬を手渡したところ,Aは,その言葉を信じて絶
望し,それを服用して死亡した。
【結論】
a 事例Ⅰは自殺関与罪,事例Ⅱは殺人罪

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b 事例Ⅰ及び事例Ⅱはいずれも殺人罪
c 事例Ⅰ及び事例Ⅱはいずれも自殺関与罪
【根拠】
アAは,甲にとって故意ある道具であるというべきである。
イAは,「死」の意味を十分理解していて死ぬこと自体には錯誤はなく,死を決意する動機に錯誤
があったにすぎないというべきである。
ウ自らの生命(余命等)そのものに関して錯誤があった場合には,それ以外のことに関して錯誤が
あった場合とは質的な違いがあるというべきである。
エ一般的に,死ぬ決意で自ら命を絶っている場合と,死ぬ意思の全くない人を殺害した場合とを同
価値として論ずることはできないというべきである。
オ一般的に,死を決意しても,その後の翻意によって死の結果が回避される可能性があるので,甲
は死の結果を直接に支配しているとはいえない。
カAの死の決意は,重大な瑕疵ある意思に基づきなされていることを重視すべきである。
キ死を決意するまでの過程で生じたAの錯誤が,自己の生命という法益に直接関係しているか否か
によって,死の意思決定が無効になるかどうかを判断すべきである。
1.aウキ2.bアカ3.bオカ4.cイエ5.cエオ